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神戸地方裁判所 平成7年(シ)4号 決定 1996年3月21日

主文

別紙物件目録一記載の土地(本件土地)について、申立人らと相手方との間に成立した借地権譲渡契約(譲渡人・相手方、譲受人・申立人ら)における右譲渡の対価を金一一四四万三〇〇〇円と定める。

理由

【事実及び理由】

第一  申立ての趣旨

別紙物件目録一記載の土地(本件土地)について、申立人らと相手方との間に成立した借地権譲渡契約における譲渡の対価(本件対価)を決定する。

第二  事案の概要

一  本件は、罹災都市借地借家臨時処理法(罹災法)三条の規定に基づいて成立した相手方から申立人らに対する借地権譲渡について、申立人らが右譲渡の対価の決定を求めた事案である。

二  前提事実

1 丙川竹夫は、昭和三三年ころ、戊田梅夫から、同人所有の本件土地を建物所有の目的で賃借し、右土地上に別紙物件目録二記載の建物(本件建物)を所有していた。平成三年七月以降の右借地の賃料は、月額一万四七〇〇円である。

2(一) 申立人甲野は、昭和五九年四月二日、丙川竹夫から、本件建物の西側半分を賃借し、二階に居住し、一階で洋装店を営んでいた。

右賃貸借契約の敷金は七〇万円(敷引二割)、阪神・淡路大震災(本件震災)当時の賃料は月額六万二〇〇〇円であった。

(二) 申立人乙山は、昭和四四年七月一五日、丙川竹夫から、本件建物の東側半分を賃借し、飲食店を営んでいた。

右賃貸借契約の敷金は五〇万円(敷引一割五分)、本件震災当時の賃料は月額六万円であった。

3 本件建物は、阪神・淡路大震災により倒壊して滅失した。

4 申立人らは、平成七年三月六日ころ、丙川竹夫に対し、罹災法三条の規定に基づいて、本件土地の借地権の譲渡の申出をした。これに対し、丙川竹夫は、同月一七日、右申出を承諾した。

5 丙川竹夫は平成七年一〇月二一日に死亡し、相手方が、本件に関する債権債務を相続により承継した。

6 しかしながら、右借地権譲渡の対価(本件対価)について、申立人らと相手方との間で協議が成立しない。

第三  本件対価について

一  鑑定委員会は、<1>本件土地の更地価格を三六八一万円、<2>本件土地の借地権価格(罹災借地でない通常の場合)を一八二二万円(本件土地の基礎価格を三三一三万円とみて、その五五パーセント)、<3>本件建物の借家権価額(罹災借家人に帰属する経済的利益)を五三万八〇〇〇円(申立人両名分の合計)、<4>本件土地の借地権を第三者に譲渡する場合における地主に支払う一般的な借地権譲渡の承諾料を一七七万円(罹災借地でない通常の場合の借地権価格一八二二万円から罹災借家人に帰属する経済的利益五三万八〇〇〇円を控除した額の一〇パーセント)と評価したうえで、<5>本件対価について、本件土地の罹災借地としての借地権価格を、<2>の罹災借地でない通常の場合の借地権価格の五〇パーセント(九一一万円)とみて、右九一一万円から<3>の罹災借家人に帰属する経済的利益五三万八〇〇〇円を控除した八五七万二〇〇〇円とするのが相当であるとしている(以下、「鑑定委員会意見」という。)。

二  鑑定委員会意見は、<5>において、本件土地の罹災借地としての借地権価格を罹災借地でない通常の場合の借地権価格の五〇パーセント(したがって、基礎価格の二七・五パーセントとなる。)とした理由として、借地人が再建しないこと、借地人が再建するなら本件申立人らの優先借家申出の可能性が高いこと、借地人が再建するとしても相当の期間と費用の支出を伴うこと、震災後の借地権を地主が買い取る事案(いわば借地権の消滅の対価)は、更地価格の二ないし三割程度を土地所有者が提示するケースが多くかつ増加していること、借地権単独で建物の存しない状況下での取引の正常な市場は皆無といえることなどを挙げている。

しかし、かかる事情を考慮したとしても、本件土地の罹災借地としての借地権価格を罹災借地でない通常の場合の借地権価格の五〇パーセントとみるのは、低きに失するとの感を否めない。そこで、罹災借地であることを考慮して、本件土地の借地権価格は、基礎価格の四〇パーセント(一三二五万二〇〇〇円)とみるのが相当である。

三  また、鑑定委員会意見は、本件土地の借地権を第三者に譲渡する場合における地主に支払う一般的な借地権譲渡の承諾料(<4>)を含むものとして、本件対価(八五七万二〇〇〇円)を算出している。

しかし、罹災法三条の規定に基づく借地権譲渡の場合には、右譲渡について賃貸人の承諾が擬制されており(同法四条)、承諾料の支払いも不要と解されるのであるから、罹災法三条の規定に基づく借地権譲渡の対価を決めるにあたっては、一般の借地権譲渡の場合における承諾料に相当する額(借地権価格の一〇パーセント)を借地権価格から控除するのが相当である。

四  すると、本件対価は、次のとおり一一四四万三〇〇〇円(千円未満四捨五入)となる。

33、130、000×0・4〔借地権価格〕-538、000〔罹災借家人に帰属する経済的利益〕-(33、130、000×0・4-538、000)×0・1〔借地権譲渡承諾料相当額〕=11、442、600

(裁判官 石井 浩)

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